若の瞳が桜に染まる

「私も詳しくは知らないけど…。
私が生まれてすぐにお母さん亡くなったから、ずっと施設で育ったの。

お父さんのことを知ったのは中学校を卒業して施設を出るとき。柊忠義っていう警察官だって知った。

…だからって何とも思わなかった。
ただ、お母さんを捨てた人と同じ名字なのが嫌で、柊って呼ばれるのを拒否するようにはなったけど…」

柊忠義と日和は、血が繋がっているというだけで、他の繋がりはどこにも無かった。
だと言うのに、天祢組に拐われて言い掛かりをつけられて、恐怖心を植え付けられ…。純然たる被害者であることに違いなかった。

「そうなんだ…。本当に…、こんなことになって何て言って謝ればいいのか…」

だが、日和は我久が心配するほど怒りを抱いていなかった。

「天祢さんのせいじゃないでしょ?
謝らなくていいよ。

昨日も、しつこく同じことを聞かれただけだから。

…あ。あれ…」

日和が見つけたのは、机の上に置いてある透明な花瓶。今ではそこに挿さっているのはワスレナグサの茎に花はついておらず、全て散って周りを青く染めていた。