若の瞳が桜に染まる

だが、辰久だけは呆れた声をあげた。

「はっ、調子の良いことを。
監視役からそんな報告は受けてない」

「社内恋愛になるから誰にもバレないようにしてただけだ」

辰久に突っ込まれたところで揺らぐほど、我久は生半可な気持ちではなかった。自分の力で必ず、日和を助ける覚悟でいた。

そんな我久の覚悟を軽くあしらうように、辰久は口元に笑みを浮かべた。だが目は一切笑っていない。

「ほう…。
あくまで恋人という話を貫くつもりか。

ならばもう良い。
嬢ちゃんを連れて部屋に戻れ。
話はまた明日だ。

屋敷の外には出すな。我久、お前もだ」

「あ、あぁ」

意外にもあっさりと話がついたことに、我久は逆に安心できなかった。だが、辰久が何を企んでいるかまではわからず、とにかく日和を支えて部屋を出た。