若の瞳が桜に染まる

「いや、仮にそうだとしても来ちゃ駄目だ!」

二人に流されてポロっと口を滑らせてしまうことがないよう、我久は必死で抵抗した。

「あー、でもそれはついでですよ。ここには他に用事があって来たんです」

「ついでと言われるとそれはそれでなんか…」

日和のことを根掘り葉掘り聞かれるのは絶対に嫌だった。
が、だからと言ってついでとないがしろにされるのも嫌な感じがして、複雑な心境だった。

「で、我久。誰なんだよ。その女って?
花見せてみろよ」

ぐっと体を寄せて覗き込んでくる蘭。

蘭にとっては、我久が好意を抱いている女性を探ることの方がメインになっているらしい。

そういえば、自分に近づいてくる女性は蘭や旬の手によっていつのまにか遠ざけられていた、と我久は今までの理不尽な彼らの行いを思い出していた。

だからこそ、花瓶を奪い取ろうと手を伸ばす蘭に背を向けて、花を死守した。

「や、やめろよ!
あんまり触ったら枯れるかもしれないだろ!

ったく、俺はもう帰るからなっ」

この二人といたらどうなるかわからないと判断した我久は、一人でさっさと歩いて会社を離れた。