それもそのはず。
彼らが入社したのはトキオノという超マイナーな雑誌社。都内に建つビルのワンフロアに構えた小さい会社である。
東京で起こる事件や騒がせているニュース、信憑性の薄い都市伝説を扱う雑誌ウォルクと、東京の観光スポットや隠れた名店、ガーデニングやインテリアなどを扱った女性向け雑誌スカイリーを発刊していて人気はそこそこに低迷中。

それでも、このご時世をなんとか生き抜いている。

そんなトキオノに勤めて二年目、ウォルクの記者をしているのが天祢我久。
彼は最後にオフィスに入ってきた新入社員の一人を凝視していた。
不思議なことに、彼女、柊日和を一目見た時から、胸を鷲掴みにされた感覚に陥った。そして彼女の自己紹介を聞きながら、目が離せない自分を自覚した。
そんな自分に、彼自信戸惑っていた。

我久の瞳を捕らえて離さないその女性は、色白の肌に淡い桜色の長い髪を携えている。軽くウェーブがかかったその髪は彼女が動く度にふわりと揺れる。
服装はというと、シンプルな白いワンピースに身を包んでおり、そこからのびる細い手足はとても華奢で女性らしい印象を与える。
まるで春を具現化したような、浮世離れした女性。我久にはそこだけ空気が違って見えた。