若の瞳が桜に染まる

「あれ、ワスレナグサっていうの」

そう言って日和が指差したのは、我久が先ほど眺めていた花。

「あ、聞いたことある名前だ。ワスレナグサってこういう花だったんだ。

大きくて目立つ花も綺麗だけど、俺はこういう小さくても一生懸命咲いてる花が好きだな」

もう一度花壇の前に座って、青く揺れる花を眺めた。
するとすぐ隣に日和が座って同じようにワスレナグサを眺めている。

突然の接近に、花の観賞どころではなくなる我久。だが、日和はそんなこと微塵も意識はしていないはず。
それがわかっている我久は、純粋に花を楽しめない自分の未熟さを情けなく思った。
しかし、好意を抱いている相手がこうも近くにいるという状況から意識を簡単に逸らせるほど、我久は大人ではなかった。