若の瞳が桜に染まる

もう駄目だと諦めかけた時、部屋にガラスの割れる音が響いた。

楠井も音に気をとられて日和から手を離す。

音のした方をよく見ると、窓ガラスに掌ほどの穴が割れて破片が散らばっている。そしてその窓には、庭のラクウショウの枝が伸びていた。

だがその枝先は灰のように白く変色している。

「…これ、日和がやったの?」

日和の負のエネルギーを吸収して成長したとでもいうのだろうか。

だが日和も少なからず驚いていた。自分が育てた訳ではない植物に、これほどまで早く影響を与えてしまうことは今までになかった。

「…わからない」

楠井は枝先を鋭い目付きで観察していた。
観察している内容は、日和にもさっぱりわからない。

「…まずいな」

楠井には何か思い当たることがあったのか、それだけ呟くと慌てて部屋を出ていった。

一人になった部屋で、楠井が戻ってこないのを確認すると、日和はほっとした。とりあえず今回はキスからは逃れられたようだった。