警視庁のとある場所にある、限られた者だけが入ることのできるこの部屋。
いわゆる隠し部屋というやつだ。

そこには、真面目で誠実そうな五十代後半に見える男性がいた。
警察のトップに君臨する男、警視総監の柊忠義だ。

今まで天祢組との協力体制を築いてきた彼だが、辰久の扱い難さにうんざりし、そろそろ手を切ろうと考えていた。
だが、相手も大きな組織であるため、手を切る為にはそれなりの覚悟が必要となる。
そこで、上手いこと報復されない裏切り方を練っていた。

そんな忠義が一人で眺めているのはパソコンの画面。

そこには、都内のある場所を移動する赤い点が映し出されている。GPSの位置のようだ。

移動を確認すると、どこか嬉しそうに呟いた。

「ついに動き出したか。

私たちもそろそろ…」

忠義は別のパソコンから、一斉にメールを送信する。秘密裏に活動する忠義の部下たちにだ。

それが作戦の合図だった。

点滅した赤い点は、なおも移動を続ける。

忠義がにやりと見つめるその点は、我久たち四人を乗せた車の動きと全く一致していた。