若の瞳が桜に染まる

なんでもいいから沈黙を破りたいと思うのに、口を開けば楠井の名前が出てきそうで躊躇われる。

我久を包む空気がどんよりさを増す。

「…我久、……怒ってる?」

後ろから、様子を窺ったような声が聞こえてきた。

はっと、不安にさせてしまったと思い、立ち止まって振り返る。

でも何はともあれ話すきっかけになる。ここから上手く話を広げていって、この嫌な空気を断ち切ろう。

「怒ってない。考え事してただけ」

….言い方が最悪だ。

本当に怒ってなどいないのに、自分でもヒヤッとするほど冷たい声が出た。
空気がますます重たくなる。

「あ……いや、….」

「そう…」

弁解しようとするも、日和はその横をとぼとぼと俯いたままに通り過ぎて行ってしまった。