「日和…」

優しく声をかけると、少しだけ体が動いた。暗い部屋だが、こっちを見てくれていることがわかった。

「おいで」

手を広げて待つ。

我久としては、かなり勇気を振り絞って言った言葉だった。性格からして、おいでと言って断られたらどうしようなどという考えがまず先に浮かぶが、今の状況では、こうでも言わないと日和は自分を頼ってくれないという思いの方が勝った。

すると、すっと細い腕がこちらに伸びてきて、さっきよりも強く抱きつかれた。
膝枕をしているような状態でそっと背中に手をのせる。

怖い夢と一言で言っても、きっとよくある怖い夢ではないんだと察した。もっとドロドロしていて、二度と思い出したくないトラウマのようなものではないかと…。

「大丈夫。

俺なら、ずっとここにいるから」

我久は日和が落ち着くまで傍に居続けた。気がつけば、日和は腕のなかで規則正しい寝息を立てていた。

そんな日和の姿を見て安心した途端、我久にも睡魔が襲ってきた。
動いたら起こしてしまいそうで、日和に服を掴まれたまま、そっと横になり同じ布団で眠ることにした。

眠る前に、旬と蘭の言っていたことを思い出した。
観察眼は我久よりも二人の方が優れている。そんな二人が揃って、日和には何か抱えているものがあると報告した。
ならばそう考えるのが妥当だろう。

そんな日和が、頼ろうとしてくれている。

日和の温もりを感じながら我久は誓った。

ならば、彼女を守れるくらい強くなろうと。