家に帰ると、暗く悲しい顔をした母がリビングのソファーに座っていて、どきりと胸が嫌な音を立てた。
「何があったか、先生から聞いたよ」
先生というのは、なんて余計なことをするのだろうと私は猛烈に腹が立った。
「ごめんね、雛子。気づかなくて、ごめんね……」
「大丈夫。私は大丈夫だよ、お母さん」
そっと抱きしめた母の腕の中はとても温かく、耳元で聞こえる涙声と震える肩に酷く胸が痛んだ。
大丈夫だから。
何度そう伝えても、母には届いている気はしなかった。
その後数日間、母は口数が減りぼんやりとしていた。
「かぁさんは、心の中の海を漂っているんだよ」
そんな母をよく父はそう例えた。
からかわれた事より母を傷つけてしまったことの方が、ずっと辛かった。
その罪悪感を、今でもよく覚えている。