「......ごめん、俺、眼鏡踏んじゃった」
「あ......」
こっちを向いた彼は蒼白で、責める言葉も思い浮かばず、しばらく無言で見つめ合った。
その日の授業はあと一時間で終わり。
先生に事情を話し、早退する事になった私は部品の欠けた眼鏡を手に家へ帰った。
「どうしたの? 雛子」
いつもより早い帰宅に驚く母に事のてん末を話していると、鞄の中から小さな振動とくぐもった音が響いた。
私の携帯からだった。
携帯電話は、校内では使用厳禁だけれど、緊急時用に持ち歩くことは許可されている。
こっそり使っている人たちもいるみたいだけれど、見つかると没収され、反省文を書かされる。
春哉も樹里もすでに中学からスマートフォン。
けれど、私はずっとキッズ携帯を使っていた。
メールも出来たし写メも撮れるし、連絡を取り合う相手が数人だった私には充分で、不満はなかった。
そんな私に世間の流れを察した母が、入学祝に買ってくれたのがこの携帯だった。
まだ不慣れなその機械を指先で不器用に操作する。

