「榊さんさ、ひなと同じクラスなんだろ?」
「うん、そう」
彼女の学力ならもう少し上も目指せたはずだけど。
榊さんも同じ高校に進学していた。
二人並んでつり革に掴まり、カーブの度に揺れる身体を両足でしっかりと支える。
朝のバスはいつも満員だ。入学して数週間目、まだこの混雑と揺れには慣れなかった。
「俺、あいつ少し苦手」
大げさな渋い顔。
春哉は正直だ。
「榊さんも、春哉以外にはすごく感じいいだけどな」
思い出し笑いをこらえながら話す。
受験勉強が佳境に入り、榊さんと我が家でもするようになって、何度か三人で一緒に勉強した。
けれど、いまいち相性が良くないのか、なんとなく気まずい空気になるのだ。
理由はよく分からないのだけど。
「けど良かったじゃん。知ってるやつが一緒のクラスで」
「......うん」
榊さんと仲良くなったことで、両親、とくに母はすごく喜んでくれた。
きっと春哉も。
言われなくても、こんなにも伝わる不思議。

