「白井くん、彼女出来たって!」

「えー! 相手誰ぇ?」

廊下で騒いでいる女子たちのやり取りを聞いたのは三年生になってそれからすぐの頃。

これでようやく春哉とのことで誤解されないですむ。

というのが私の心に浮かんだ正直な感想だった。

けれど噂を聞いてからも、彼は何も変わらなかった。

「ひなぁ、ここ分かる?」

受験対策テスト前。

当たり前のように家へ上がり、リビングのテーブルに勉強道具を広げていく。

私は何とも言えず、ただ瞬きを繰り返した。

「何? 分かったんなら教えろよ」

ふてぶてしく見上げるその顔もいつも通り。

春哉の声は最近変化して、低い音は怒っているように聞こえるけれど、きっと何も考えていない。

そう思うと少し苛立った。

「春哉、彼女出来たんじゃないの?」

「は!?」

色々考えるのも煩わしくて、単刀直入に聞くと春哉は視線を外した。

「なんで知ってんだよ」

気まずそうに胡座をかいた脚を組み直す。