「それ、私も全シリーズ持ってるよ。中谷さんって色々なジャンルの本読んでるよね」
恋愛物、推理物、歴史物。
他にも興味が湧けば様々な本を読んだ。
本は私を一瞬で別の世界へ運んてくれる。
何にでもなれてどんな事でも出来る。
表紙を閉じるまでは、私は私でいることを辞められるのだから――。
彼女はそれからも、図書室で教室で、微妙な反応の私に絶えることなく話しかけ続けてくれた。
内容は色々。
「新刊出るの、知ってる? 今度〇〇書店でサイン会があるよ」
「中谷さんもそのパン好きなんだ。じゃ、多分帰り道にあるケーキ屋さんのシュークリームも好きだと思うよ。食べてみて?」
さり気なく体育であぶれる私と組んだり、クラスの係も同じものに手を挙げたりした。
三年になっても、教室で明らかに浮いていた存在の私に。
同情しているんだろうか?
春哉と幼馴染だから?
私の心は卑屈に震えていた。
優しさの裏側の嘘偽を見つけるために、私は彼女をよく観察した。
背は高く、
線が細い、
涼し気な奥二重の目元。
少年のような中性的な雰囲気で、
運動も勉強もそつなくこなす。
女子とも男子とも仲良く話すけれど、誰か特定の人とずっと一緒にいるわけではないようだった。
付かず離れず――。
他人と一定の距離をとっている。
そんな風に見えた。

