私には中学二年の時の記憶がほとんど無い。

過敏になりすぎた神経は、私の感覚を麻痺させて、与えられたことをこなす機械のようにただ毎日を過ごしていたように思う。

自我を、存在を消すように。

私は更に無口になり、学校では必要最低限の会話しか交わさないようになっていた。

他人が自分をどう見ているのか異常に怖く、何を言ってもやっても、自分だけが浮いているように感じる。

自分の中で膿み出てくる過剰な疎外感を止められず、遠足や学校行事は全て苦痛そのものとなっていた。

修学旅行だけはどうしても行きたくなくて、母には体調不良と言って休ませてもらった。

勉強は嫌いでは無かったけれど、出来るならずっと家にいて外に出たくなかった。

けれど母を想うと、それも簡単にはできない。

私の身体と心は不安定になっていた。

「よっ」

「元気?」

「何してんの?」

そんな時でも、春哉はチロの散歩に行く時必ず一言私に声をかけた。

私が嫌な顔をすればすぐに立ち去り、話したい時にはただそこにいる。

「今日春くん来ないわね」

春哉が来た日は、なぜか母の方が嬉しそうだった。

きっと春哉といると私の中のぴりぴりとしたものが解け、母を安心させていたのだろう。

私の気づかないところで、春哉は母も癒してくれていた。