月曜日。テスト初日。

足が重い・・・。


決してテストが嫌なわけでなく。むしろ土日は家に籠って集中して勉強ができたので、今回のテストはなかなか自信がある。
そうじゃない、そうじゃなくて・・・金曜日のことを思い出すと、やっぱり怖いというか・・・。

もしあの時、私が逃げるところを見られていたとしたら、今日何か言われたりするだろうか・・・。
私なんかに言うことは何もないだろうか・・・むしろそうならありがたい。


「おっはよ!・・・朱音?」
「あ、うん。おはよー」
「元気ない?」
「え?あぁ、ううん!大丈夫!!」


ま、テストだから大して元気でないのも仕方ないよねー、とケラケラ笑う守里ちゃんが背中からギュウギュウに抱き付いてくる。
その苦しさになんだか可笑しくなってきて、笑ってしまった。


「てか初っ端のテストから選択授業の教室行かなきゃじゃん」
「あっ、ほんとだ。行かなきゃだね」


立ち上がって、歴史のノートだけ手に持った。
勉強はしたけれど、不安はあるのでギリギリまで確認しておきたい・・・。

守里ちゃんの勉強のヤマを張ってきた話を笑いながら聞いて、廊下へ出る。



「・・・っ!!」


・・・トン、と心臓が叩かれた気分だ。
向かう方向から、あの人が歩いてくる。

ハッとして正面から目を逸らして、守里ちゃんの方へ向く。守里ちゃんは気付いた様子はなく、話を続けている。
何故だか、周囲にはたくさんの音があふれているのに、相手の一歩一歩の足音がやけに耳に響く。

・・・耳、塞ぎたいな。

でも、耳なんて塞がなくても、周りの音は自然と聞こえなくなっていく。
緊張のせいで、近付く分だけ周囲の音が聞こえなくなっていく。
意識しているせいで、あの人の足音がやけに耳に入ってくる。



「・・・」

「・・・」



きっと私には気付いてる。
どうか、知らないフリで通り過ぎて欲しい。


「でねー、朱音の・・・朱音?」
「え?あぁ、うん。何?」


守里ちゃんの声が私に届いてハッとした。
あぁ、そういえば今は学校にいるんだったと思い出して、周囲の音がだんだん大きくなって、現実に戻っていく。


同時に・・・あの人が、私の横を通り過ぎていく・・・。






「弾けばいいだろ」





す、とん・・・。

小さな、本当に小さな声が、呟くような声が、すれ違いざま私へ落とされた。


その言葉が聞こえて、周囲の音がすべて戻ってくる。
テストの話が主な周囲の声に、教室に駆け込んでくる慌ただしい靴音。過ぎる教室内から椅子を引く音や、机をたたく音。そして、守里ちゃんは変わらず私へ話掛けて、私はそれに笑う。




・・・・・・っ、・・・確かに私へ向けられた言葉だった・・・。






「んー?・・・ゆーちゃん、今なんか言った?」
「別に」
「ふーん?」