朝、今日は日直で早く登校した・・・けど。


「・・・終わった」


全て終わってしまえば暇になった。まだ誰も登校してこないし、部活動停止の期間だから朝練の活気ある声も聞こえてこない。
机に頬をつけて外を眺める・・・あ、勉強しよう。テスト近いし。なんて頭に思い浮かべて、行動に移さずそのままぼーっと外を眺める。

朝のまどろみとか、開けた窓から吹き込む風の生ぬるさが、夏が近いと教えてくれる。
もうブレザーも要らないなぁ、なんて考えながら窓際を見て気付いた。


・・・花瓶の水、代えてないじゃん。


勉強しようと思ったときには動かなかった体が、花の水を代えるためには動いたことに少し笑った。
きっと自分は勉強はしたくないんだな、と。

いやいや、それでもこれが終わったら本当に勉強しよう。

要は、勉強しよう、って切り替えがうまくいかないだけ。なにかのきっかけでスイッチが入らないと、動かないんだ。


花瓶を持って廊下へ出ると、水盤まではすぐそこだ。
一般生徒はまだ登校してくるような時間じゃない。部活動をやっている生徒は、もしかしたら朝練の習慣でもう登校しているかもしれないけれど、行くとしたら部室の方へ向かうだろう。
部室に靴も教科書も置いてある、なんて良く聞く話。

しん、と静かな廊下に、蛇口をひねる音、水の音、水の跳ねる音、花瓶の中へ水が注がれていく音・・・すべてが重なって響いた。
そしてもう一度蛇口をひねる音を響かせると・・・ふと、足音が聞こえた。

誰かが階段を上がってくる音、だ。

私はなんとなく、本当になんとなく、階段の方を覗いてみた・・・・・・、っ。



「・・・?」



あの人だ。
昨日も一昨日も旧校舎の音楽室で、私とピアノの近くで寝ていたあの人だ。

私はとっさに、教室へ逃げ込んで教卓の陰に隠れた。


「・・・」


足音が止まった。
ドアの扉を背にして、私はじっと静かに待つ・・・。

しばらくすると、また足音が聞こえて・・・私の教室を過ぎていく。
少し遠くで扉の音が聞こえて、その人が自教室に入ったと分かってほっと息をついた。


な・・・なんで隠れちゃったんだろう・・・。


よくよく考えたら、別に隠れることなかっ・・・いやでも、怒られるかもしれない、し。
でもそんなの、私の勝手な想像、だし。あぁぁへたれ・・・。
この教室を過ぎた向こう側は2年の教室しかない。ということは、あの人は同じ年なんだ。


・・・初めて、目が開いているところを見た。
いいな。なんだか堂々として、自分をしっかり持っているような強さがあった。



花瓶から少し垂れた水を見て、「ピアノ弾きたいな」なんて考えて、頭を振った。

私が今やるべきことは、花瓶を置いて、勉強をすること。
そう、これだ。


自分に一つ気合を入れて、ぐっと顔を上げた。
窓の外に飛んでいくスズメが見えて、立ち上がる。




・・・勉強しよ。