4時間目の授業も終わって、昼休み。
守里ちゃんがニコニコしながら、私の席にお弁当を持ってくる。どうやら今日はお弁当に好きなものが入っているらしい。
分かりやすい友人の表情に、穏やかな昼が始まると思っていた。
「宮崎朱音いる?」
教室の後ろの扉から聞こえた声が、教室の中をまっすぐ突くようで、思わず肩が跳ねた。
しかも怒気を孕んだその声は、私の名前を呼ぶものだから更に縮こまる。
静まった教室内で、返事もできず固まっていると、その人とバチッと目が合った。
「・・・っ、ひ?!」
怒ったような顔で、無言のまま、ずんずんこちらへ向かってくる。
なな何何何なに・・・!どうして怒ってるの!!
ビクビクしながら目をそらせずにいると、その人は手に持った紙を私の目の前に掲げた。
それは、昨日の放課後、返事を残したあの手紙だ。
「これ、どういうこと」
「っ、ひぅ!?」
アホな声でビビる私を気にせず、その人は少し屈んで、真正面から私を見てくる。
「『ありがとうございます。もう弾きません』って、なに」
「っ・・・?」
なにって、そのままの意味・・・なんだけど・・・。
「俺がいなかったら弾いたんじゃないの?お前、弾きたいんだろ?」
・・・・・・あ・・・。
怖がりすぎて閉じた口を、
「違う、わ、たし、弾くよ・・・貴方がいても、弾く」
「・・・」
「でも、あの、あそこで弾かなくても、良くなる・・・から」
そう言うと、その人は目を見開いて息を吐く。
「・・・どこで」
「え、ぁ、えと・・・」
「あ、次はいつ弾くの」
「ぅ、えと・・・今日?」
「放課後?」
「は、はい」
じっ、と目を見つめてから・・・わかった、と頷いた。一体何がわかったのか、私はさっぱりわからない。
「俺も行く」
「え、はぇ?!!」
「なんか不都合ある?」
「・・・・・・ない、かな」
後で気付いたけれど、ここで不都合だと言っておけばこの人は来なかったのではと・・・。
それでも、この展開の早さについていけない今、嘘を吐くような余裕もなく、ただただ本当のことだけしか言えなくなってしまっていた。
「じゃあ、行く。いい?」
「・・・はい」
ぽかん、としたまま返事をした私は、今とても間抜けだ。
それでも「じゃあよろしく」と手を振ったその人に、癖か習慣か手を上げて応えた。