お昼休みが終わって、5時間目。
私はこの時のために教室に来たのだ

英語の授業。

-井島先生に会える

教科書とノートを出して、私は一番後ろの席でそわそわしていた。
髪の毛が乱れていないだろうか、
お弁当が口回りについていないだろうか、
普段気にならないところまでもがどんどんどんどん
気になってしまう。

始業の時間より少し前に井島先生は教室に入ってきた。
廊下でも誰かに話しかけられていたのか、足からはいって、頭は一番最後だった。

井島先生を目で追っていた私は、すぐに井島先生に気が付かれた。
昨日はしてない眼鏡に驚いたのか目を数回パチパチさせた後、私の机のそばまでやって来た。

「いっしょ」

井島先生は少し屈んで、自分の青い縁の眼鏡を人差し指で指して笑った。

私は自分の顔が真っ赤になっていくのを感じていたけど、井島先生から目が離せなくて
声をかけてくれたことが嬉しくて、
きっとそれは私を覚えててくれたってことで、
あんな短時間だったのに、昨日と外見も変えてたのに。
私は嬉しくて泣きそうで、にやけそうで、下唇をぎゅっと噛み締めた。

井島先生は暖かく微笑むと教卓まで戻っていった。


チャイムがなり、授業が始まる。
英語は大嫌いだった。
最初の方にちゃんと授業を受けてないからわからないということもあるけど
意味の無いアルファベットのならびを覚えるのが苦手だった。

井島先生の授業は良くも悪くも普通だった。
そんなに分かりにくくも退屈でもなければ、とても分かりやすく、苦手が克服できるような感じでもない。

だけど、私には楽しい授業だった。
時々挟む先生の思出話や、体験談。
好きな歌や、洋画の見所。
ちょこちょこやらかす、ミスや変な行動。

すべてが愛しく、時々目が合う気がして
私はとても幸せだった。

でも、いくら好きな人の授業でも嫌なものはある。
小テストだ。

テスト中は先生の声が聞けない。
しかも、英語がちんぷんかんぷんの私は小テストで的はずれな回答を書いて
ダメな子だと思われるのが嫌だった。
それでも、なにも書かない空欄よりかは良いかと
わかる範囲で必死に長文英語を読み、答えを書いていた。

すると、不正をして無いか教室内をうろうろしてる井島先生が私の横に来て立ち止まった。
私は何か変な行動をとっていたか心配になって横に来た井島先生を見上げると、井島先生はニコッといたずらっ子のように笑って私にもたれ掛かってきた。

「(どーん。)」

小声でささやいてくる先生に、私はドキドキして、嬉しくて固まってしまった。

「(できた?)」

先生の声がすぐ近くで聞こえて、先生の重みを感じて、思いっきり首を横に振った。
英語の教師に対して、テストが出来ないことを全力で表現されたのが面白かったのか、井島先生はさらに体重をかけた。

「(埋めてるから、よし)」

そう言った後、井島先生は私からゆっくりと起き上がり私の頭を軽く2回ポンポン叩いてから教卓まで歩いていった。

私は井島先生が背を向けている間
先生の背中を見つめていた。
下唇を噛み締めて、下を向いて緩む顔を隠していた。

テストが終わって、一番後ろの私が前の子の回答用紙を集める。
全員分集めたら教卓にいる井島先生に渡す
他の列の子が渡し終わるのを待ってから 、先生にちょっと照れながら渡す。
最後だったからか、井島先生は受けとるときに「サンキュ」と言ってくれた。

その後の授業は、教科書に沿っての授業だった。
黒板に大きい字で英文法を書いていく先制を見つめながら、時々ある先生情報をノートのすみにメモしていたら
あっという間に英語の授業が終わってしまう。

授業後は特になにも接点はなく井島先生は教室を出ていった。

私は廊下から聞こえてくる他の生徒とじゃれる井島先生の声を聞きながら、次の授業の準備をした。