(短編集)ベッドサイドストーリー・2



 いいの?

 いいの、ちゃんと好きになっても?

 大丈夫なの?

 ねえ、晃・・・。

 私は眩暈を感じながら前を向いた。晃の視線が恥かしかったし、そうすることで、撫でられている指の感触をハッキリと感じることが出来るから。

 熱をもった晃の指が、私の指をゆっくりと撫でる。

 結局始発電車が動き出す時間まで、そうしていた。

 無言で、座ったままで。

 カウンターの下での指の愛撫。それは私の中で強烈な足跡を残してしまう。


 始めてもいいってことかな、この恋を。押さえつけなくて、真っ直ぐに、晃を好きになっても。


 朝焼けの中をタクシー乗り場まで送ってくれて、晃はじゃあまた、と言った。

 その顔は今までと違う、大人の男性の顔をしていた。目元には優しいけれど、強い意志をひめた光が宿っている。彼が私の唇を見ているのがわかっていた。

 私は言葉もなく頷く。

 じゃあ、また――――――――――

 タクシーの中、貰った言葉を繰り返しては微笑む。

 太陽がビル群の向こう側からあがってきて、眠らない街中を照らしている。私はその中を走るタクシーに乗りながら、目を閉じた。

 氷が解けていくように、気持ちも今、溶け出したのが判った。




・「氷がとけるように」終わり。