いいの?
いいの、ちゃんと好きになっても?
大丈夫なの?
ねえ、晃・・・。
私は眩暈を感じながら前を向いた。晃の視線が恥かしかったし、そうすることで、撫でられている指の感触をハッキリと感じることが出来るから。
熱をもった晃の指が、私の指をゆっくりと撫でる。
結局始発電車が動き出す時間まで、そうしていた。
無言で、座ったままで。
カウンターの下での指の愛撫。それは私の中で強烈な足跡を残してしまう。
始めてもいいってことかな、この恋を。押さえつけなくて、真っ直ぐに、晃を好きになっても。
朝焼けの中をタクシー乗り場まで送ってくれて、晃はじゃあまた、と言った。
その顔は今までと違う、大人の男性の顔をしていた。目元には優しいけれど、強い意志をひめた光が宿っている。彼が私の唇を見ているのがわかっていた。
私は言葉もなく頷く。
じゃあ、また――――――――――
タクシーの中、貰った言葉を繰り返しては微笑む。
太陽がビル群の向こう側からあがってきて、眠らない街中を照らしている。私はその中を走るタクシーに乗りながら、目を閉じた。
氷が解けていくように、気持ちも今、溶け出したのが判った。
・「氷がとけるように」終わり。



