ありがと、唯子。

 君のお陰で、ちゃんと思い出したよ私。彼への気持ちも、あの幸福感も。

 これから彼の部屋にいって、謝ろう。そして、ここ最近はしてなかった告白ってやつをしなくっちゃ。

 あまりにも気持ちにのっかって飛び出してきたので、そもそも彼は部屋にいるのだろうかということは考えもしていなかった。

 それに気がついたのは彼の住むアパートに着いて階段を上がっているときだったけれど、ここまで来てしまったのだから今さら電話をするのは何か悔しい。いなくても、ちょっとくらいは待っていよう。それだって小さくても意味のある努力だよね。そんなわけで、私は弾む呼吸を整えながらインターフォンを押す。

 いますように。

 どうか神様。

 彼が在宅してますように――――――――

 足音がして少し間があいた。それから、鍵が開く音が聞こえて、現れたのは驚いた顔の彼。

 いつも部屋できている着古したゆるいシャツに、スウェットパンツ。私と同じくらい垢抜けないゆるゆるの彼の姿を見て、笑いがこみ上げてきた。

「朝美」

 ほお、とため息が漏れる。

 この声が久しぶりすぎて。あれだけ腹が立っていたし拗ねていたのに、そんなぐちゃぐちゃの黒い思いは一瞬で霧散する。彼の声を聞いただけで。

 驚いた表情のままの彼に向かって、私は言った。

「やっぱりどうしても、あなたが好きなの。私はもう遅かった?」