気が利く男性で、よく周囲を見ていた。

 仕事上での付き合いが増えるにつれ、あたしは彼に惹かれていく。最初は何とも思わなかった彼の外見もどんどん好きな箇所が増えていき、今では瞼を閉じればハッキリと思い浮かべることが出来るほどだ。

 一緒にしていた仕事が終わってしまって、最後に飲みにいくことになった。それは皆でだったけれど、あたしはドキドキして呼吸が止まるかと思っていたものだった。プライベートなことも聞けるんじゃないか、って。仕事の付き合いがなくなれば、もっと親密になることだって可能になるのだからって。

 だけどその飲み会で判ったのは、彼には既に大切な人がいて、その彼女のことを深く好きでいる、ということだった。

 いつも彼がつけていた腕時計も彼女から贈られたもので、それを大切にしていることも。

 飲み会が終わったら、彼女の部屋へと帰ることも、判ってしまったのだ。

 だからあたしは日本酒と一緒に気持ちを飲み込んだ。こればかりは仕方がない。だって彼とその彼女の仲を壊したいと思うような、暴力的な欲望はないのだから。

 好きな人の幸せを願う、それは素晴らしいことのはず、そう自分に言い聞かせて、3本のお銚子で流し込んだ。

 それからは少し距離を置いていたけれど、仕事先の紹介依頼の電話がかかってきてから、こうやって、たまの夜には電話をするようになったのだ。

 彼からの電話は仕事のことのみ。こっちからの電話は世間話。まずいかも、彼はこれで困ったことになるかも、そう思ったけれど、一度もそういう苦情を言われたことがなかった。だからずるずると続けてしまったのだ。