ぼうっと見詰めるだけの私に向かって、薄明かりの中、気恥ずかしそうに口元を歪めて彼は言う。

「俺の声だけでも、気に入ってくれたなら。・・・たくさん話すようにしますから。他のところにも興味を持ってくれませんか」

 心地よい声が耳の中で反響する。

 それは私の心臓へむかって、真っ直ぐ落ちていくようだった。

 夜の10時過ぎ、電気の消えた会社のエレベーターホールで。

 床に座ったまま、私は頷いた。


 この手の平の中に、今。

 恋の欠片が落ちてきた―――――――――




「10:00P.M.」おわり。