(短編集)ベッドサイドストーリー・2




 ・・・あれは――――・・・

「牧野、さん?」

 私の声が届いたらしい、シルエットがヒョイと振り向いた。

「あー・・・、古内さん?」

 私が影で見えないらしい、そう気がついて、ダウンライトが光るエレベーターの前まで進み出た。牧野さんは床に敷き詰められた絨毯の上にあぐらをかいて座り、窓から夜景を見ていたようだった。驚いた顔をしている。

 急いで立とうとするのを、私は慌てて手で制した。

「あ、そのままで。ごめんね、驚かせてしまって」

「本当にびっくりしました。もう誰もいないと思ってて・・・。それに、足音が」

「ああ、聞こえないでしょ。だって」

 私はあははと笑ってから、手にもったパンプスを持ち上げてみせる。

「足が痛くてね、もうむくんじゃって。残業中脱いでたからそのままで来ちゃって」

 ああ、と柔らかく言って、彼は少し笑う。

「女性は大変ですよね。でもうちの会社、この絨毯が廊下にまであるからつい座りたくなるんですよ」

「判るわー、部屋だとそんなこと思わないけど、そこなんて綺麗だろうし、誰にも踏まれてないからふかふかよね、多分」

 そうよね、私は言いながら考える。窓際ってもしかしたら特等席なんじゃないだろうか、って。特に、このエレベーターホールの窓際は。ほとんど人が留まることのない空間で、ふかふかの絨毯。座りたくなる気持ちも判るってものだ。

「今まで仕事してたんですか?」

「そうだよー。って、牧野さんもでしょ?」