・・・あれは――――・・・
「牧野、さん?」
私の声が届いたらしい、シルエットがヒョイと振り向いた。
「あー・・・、古内さん?」
私が影で見えないらしい、そう気がついて、ダウンライトが光るエレベーターの前まで進み出た。牧野さんは床に敷き詰められた絨毯の上にあぐらをかいて座り、窓から夜景を見ていたようだった。驚いた顔をしている。
急いで立とうとするのを、私は慌てて手で制した。
「あ、そのままで。ごめんね、驚かせてしまって」
「本当にびっくりしました。もう誰もいないと思ってて・・・。それに、足音が」
「ああ、聞こえないでしょ。だって」
私はあははと笑ってから、手にもったパンプスを持ち上げてみせる。
「足が痛くてね、もうむくんじゃって。残業中脱いでたからそのままで来ちゃって」
ああ、と柔らかく言って、彼は少し笑う。
「女性は大変ですよね。でもうちの会社、この絨毯が廊下にまであるからつい座りたくなるんですよ」
「判るわー、部屋だとそんなこと思わないけど、そこなんて綺麗だろうし、誰にも踏まれてないからふかふかよね、多分」
そうよね、私は言いながら考える。窓際ってもしかしたら特等席なんじゃないだろうか、って。特に、このエレベーターホールの窓際は。ほとんど人が留まることのない空間で、ふかふかの絨毯。座りたくなる気持ちも判るってものだ。
「今まで仕事してたんですか?」
「そうだよー。って、牧野さんもでしょ?」



