雅美はふんと顎を上げる。そうすれば心理的に優位に立てるだろうと思って。

 彼女はもっと若い頃から一人の男と付き合ってきて、ここ数ヶ月、彼の態度が変わってきだしたのを感じとっていたのだった。それはちょっと気が抜けたような感じ、ぼーっとすることが多くなったな、というレベルではあった。

 だけど女性ばかりの競争社会の中でもまれまくってきた雅美はピンときたのだった。

 ・・・あら、ユージったら、まさか。って。

 そう思ってからよくよく観察してみると、彼女の彼は色んなことに変化が出てきていた。物の選び方、雅美への口のききかた、歩くときにさっと車道側を歩くとか、そいう小さなことが。

 そんなわけで彼女は密かに探索を開始した。男に直接たずねるのではなく、男の行動を監視したりして。そうして、ようやく相手の女の家を発見し、今日ついさっき、とにかく男が誰のものなのかをハッキリさせるためにインターフォンを押したのだった。

 最初怪訝な顔をしていた類は、それでも自分が「浮気相手」なのだと気がついたとしても嘆き悲しむうような様子は見せなかったのだ。それは雅美の予想を裏切った態度だった。

 雅美は、この類という女の外見から、酷いショックをうけて泣き出すだろうと思っていたのだ。それを哀れんで自分は優雅に立ち去り、その後で男を呼び出してコンコンと叱り、猛省させるつもりで。

 多分、ちょっとしたツマミ食いがしたかったのだろう、彼女は鷹揚な気持ちで男に対してはそう思うことに決めていた。これが彼の初めての浮気だし、そんなことをしても切れない絆が二人の間にはあるのだから、と。それほどの自信が雅美にはあったし、それは相手の女を一目みた後も変わりはなかった。