また修斗が話し出すと、スタジアム中が静かになる。


「私のサッカー人生にかかわってくださった、選手、監督、コーチ、スタッフ、ファンの皆さん、本当にありがとうございました。そして陰で常に自分を支えてくれた妻には、本当に感謝しています。彼女がいなければ、自分のサッカー人生はもっと短く、つまらないものだったと思います」


「修斗……」


修斗のいるピッチから私のいるスタンドまではかなり距離があるのに、修斗と目が合っている感覚がする。


「ありがとう、里穂。俺を支えてくれて。本当に感謝してる」


電光掲示板に映る修斗の顔は、このときだけはサッカー選手の顔ではなかった。


優しい優しい、私の大好きな旦那さんの顔をしていた。


「えっと、最後は個人的なことになってなんかすみません」


ちょっと照れた表情を見せて頭を掻いた修斗。


「本当に本当に最高のサッカー人生でした。今までありがとうございました」


それでも最後は表情を引き締めてそう言うと、スタジアムにいる人々に向かって深々と頭を下げた。


「ありがとー修斗!」


「いつまでも応援してるぞー!」


そんな声援とともに、今日一番の修斗コールが沸き起こる。


その歓声に向かって手を振る修斗の表情は、現役最後にふさわしい、とても穏やかなものだった。