初恋シリーズ

顎を引いてそっと去ろうとする澤田をなんとしてでも留めたかった。


私はポシェットのチェーンを握り締めた。


「遼介(りょうすけ)。」


小さいけれど確実に聞こえる声で澤田の名前を呼んだ。


初めて口に出した澤田の名前に戸惑いが隠せない。


澤田は振り返って私を見るなり驚いた。


「吉田!」


私の元へ来た澤田は少し声が低くなっていた。


背も前より高くなったように思う。


「久しぶりだな。」


歯をむきだして笑う顔は昔と全然変わっていなかった。


「うん、久しぶり。」


私は自分の髪を撫でた。


町田さんが空気を読んでその場を立ち去った。