気になって仕方がない。
想像が全然つかないからだろうか。
いや、…好きな人の事だからだろう。
「亜子さん、外を見てないでここの問5解いていただけませんか?」
先程まで岩淵先生の声だけが響いてた教室。
その言葉と同時に笑いに包まれる。
「…わかりません。」
そもそも話を聞いていなかった私にはどこの問題かすらもわからない。
「はい、わからないなら後ろの………」
やっぱ悪魔だ。
絶対答えられないのを見越して私に言ったんだろうな。
…この悪魔が泣くとか…よっぽどの事だろうな。
きっと聞いても答えてくれないならこれ以上気にしてもダメか。
「はい。それでは授業終わります。挨拶お願いします。」
「礼!」

「亜子さん、少しいいですか?」
「?」
岩淵先生に言われ、廊下へ出る。
「なんですか?」
「なんですかじゃねぇよ。俺の授業中に外見てるとかいい度胸してんな。」
「あ、すみません。考え事していて。」
「…また何かあったのか?」
自分の事じゃないのに少し焦り気味の岩淵先生。
そんな事されたらまた好きが積もってくじゃん…。
「そういうのではないですよ?私が岩淵先生の…。」
事がすきだから。
なんて言うわけにはいかない。
「ん?俺の?」
「あー、岩淵先生の弱味を握りたいからです。」
「…お前俺の事なめてんのか?」
「そんなことないですよ?なめてないからこそ弱味を握りたいんです。」
「亜子さん、お前ってほんとに馬鹿だな。」
そう言って笑う岩淵先生。
こんな他愛ない話を永遠にしていたいと思った。
その時、何処からか視線を感じた。

あたりを見回すと隣のクラスの沙季さんが私を睨んでいた。
たしか前にミキが言っていた。

『岩淵先生のこと好きな子は沢山いるけどその中でも特に猛烈アタックしてるのは隣のクラスの松嶋沙季ちゃんって子なんだって。なんか怖いらしいから気をつけなよ?』

怖いってこういう事か。
でも、好きなのって甘いマスクのほうなんだろうな。
まあ、怖いからここは退散しとこ。
「岩淵先生。私次は移動授業なのでもう行っていいですか?」
「あぁ。次の授業は集中しろよ?」
にやっと笑う岩淵先生はいたずらっ子みたいな顔をしていた。
「はーい。」
そう言い、岩淵先生を離れた時、沙季ちゃんは岩淵先生の側へ駆け寄っていった。
あの気持ち悪いスマイル出るかななんて思ったのに…
「お前さぁ、毎回しつこい。」
「えー、だって、岩淵先生のその嫌そうな声にはまっちゃって」
…え。なんで甘いマスク外してるの…。
「お前にはこの顔しか見せる必要ねーよ。」
…何それ。
ってまあ、よく考えたら生徒は私だけじゃない。沢山いるんだ。
だから、1人や2人、先生の裏の顔を知っていても可笑しくない。
でも、沙季ちゃんには裏の顔しか見せる必要がないってどういうこと?
嘘を着く必要が無いってこと?
頭が混乱したまま、私は次の授業へ向かった。