「夏、気付いてる?私がこうやって遊んだ後、一緒に問題解くとね、夏ほとんど間違えないの」

「え?」

「だから、おまじない。大丈夫だよ。夏はちゃんとできるから」

 目を丸くしてぽかんとしてる夏に笑いかけて、急いで教室まで戻る。

「秋、夏樹に甘すぎるんじゃないか」

「え?でも夏さ、自分はどうせできないみたいに思ってるから…」

 階段を登りきったところで振り返ると、瞬は複雑そうな顔をしていて、思わず足を止める。

「…お前、その優しさ、あんまりやると逆に夏樹を苦しめることになるぞ」

 瞬は視線をそらして、そのまま私の隣を通って先に教室に向かってしまう。

 夏を苦しめる?

 優しくしたらダメなの?おせっかいなの?だって、夏は…。

『俺なんか、どこでのたれ死んでも誰も困らない』

 あんな顔、もう見たくない。

 傷つくことを恐れずに向かっていく夏をもう、私は、見たくないだけなの。