「……もうちょっとだけ我慢してくれたら嬉しいな」
「…え?」
「ううん。何でもないよ」
少しだけ曖昧に笑った理玖さんに一瞬だけ視線を向けると、もう理玖さんは私の方を見ていなかった
でも、私の目に写ったその横顔は誰かに似ているような気がした
「理玖さん、ありがとうございます。」
「うん。若がごめんね?」
何も言わなかった
誤って欲しかったわけじゃなかったから
「3名様ですね。どうぞ奥へ」
着いた店は普通のレストランで
超高級な店に連れていかれると思っていた私は拍子抜けしていた
「私、このサラダとスープで」
「え?それだけ?
ここパスタとかピザとかいっぱいあるよ?」
「いえ、そんなに入らないかと…」
確かに美味しそうなのばかりだけど…
「しっかり食べないと元気でないよ?」
「……」
頼んでも残すのは分かってる
せっかく作って貰ったものを残せるわけない
だったら頼まない方がいいと思うんだけど
「食え」
「え?」
タバコを吸っていた柊雅さんの言葉は
「残したら理玖に食ってもらえ」
何もかも見透かしているようで
「…はい」
NOとは言わせない何かがあった
結局私はサラダとカルボナーラを注文しんだけれど、途中で食べきれなくなって半分以上理玖さんが食べてくれた
そんなに食べてるのに、細身の筋肉質を維持しているのがすごいと感心しながら理玖さんを見ていたら
「おいしかった?」と聞かれたから
正直に「こんなおいしいイタリアンだとは思いませんでした」というと
「それは良かった。また連れてきてあげるよ」と嬉しそうに返してくれた
終始無言だった柊雅さんもいつの間にか完食していて
「出るぞ」
そう言われて店を後にしたのは午後2時ぐらいだった
