誘拐?私をどこに連れていくの?外国に売られたり?
「お…降ろしてぇぇ!!」
こんなに喚いても止まる気配を見せない車
むしろスピードが上がってる気がする…
「やっ!!」
「……黙ってろ」
泣いて暴れてやろうと思ったとき、耳元で囁くように発された声にはどこか重みがあって
「………」
何も言えなくなってしまった
「次喚いたらその口塞ぐ」
「なっ!?」
至近距離で形の良い唇が動く
そこで初めて気がついた
男の膝の上に乗せられ、横抱きに抱えられている恥ずかしい体勢に
黒のスーツを着ている男の胸の位置に私の視線がくることから、さっきの硬いものは胸板だったんだと納得する
「あの…」
「なんだ」
「せめて…前向きに座らせて…ください…」
男が纏う“普通”ではない空気に言葉が途切れ途切れに
最後には敬語になってしまった…
「………」
