私と彼をつなぐもの。

桜井さんの冷たい微笑みに背筋がゾクッとする。

「ち!違いますっ!そんなんじゃないです!私はただ、家政婦っていうか。食事の世話をしているだけです。」


慌てて否定すると黒宮さんはなぜか、不機嫌な顔になる。


「なぁーんだ。そんな事なら海斗、私に言ってくれればいいのに。私も料理には自信あるの。」

桜井さんは、黒宮さんの腕に絡みつく。


「……ねぇ。まだカレンダーの打ち合わせの途中よ。戻りましょ。」


コーヒーの置かれたトレーを持つと何も言わず、ムッとして元のテーブルに戻って行ってしまった。


近くに居た恵梨香が寄ってくる。


「七瀬ー。あれはないよ。なにも、桜井さんの前で全否定することないじゃん。黒宮さん可哀想だよ。」


「でも本当の事だし……。黒宮さんだって、私なんかと変な誤解されるの嫌だろうし。」


「また出た。七瀬の私なんか。七瀬は自分に自信が無さすぎるよ。確かに桜井さんは綺麗だけど、七瀬だって可愛いんだからっ!」


「そんな事ないよ。私には黒宮さんみたいな人は勿体ないよ。それに。」


そこまで言うと、目頭がじわっと滲んでくる。


「………私。これ以上好きになって、フラれるのが怖いんだもん。フラれたら今みたい話せなくなる。私は今のままでいい。」


「でもそれだって、黒宮さんに彼女ができたら終わっちゃうんだよ?」


「うん。わかってるよ。」


「わかってないよ!……七瀬に幸せになってほしいよ。」



恵梨香が私の肩を抱く。なぜか恵梨香の目にも涙が滲んでいた。


「ありがとう。恵梨香。」


「でも七瀬。ひとつだけ約束して。もし、相手から手を伸ばしてきたら今度は逃げないでちゃんと手をとってね。」



「…………うん。わかった。」