私と彼をつなぐもの。

お皿に移されたニンジンをパクっと食べる。


「げぇー信じらんねぇ。そんなの食べるなんて。」


がぶっとハンバーグを食べる黒宮さんをチラッと横目で見ながら私は、隣に聞こえるように大きめの独り言を呟く。


「はぁー。ハンバーグ食べたかったなぁ。今日は絶対ハンバーグって決めてたのになぁ。あとちょっとで食べれたのになぁー。」



「そんなに食べたかったのか?」



「はい。」



「でも残念。俺はこのあとフライトでそんなに時間がないのに今日の社食はハンバーグだって知ってわざわざ、社食まで来たんだ。譲れないねっ!」


「わー。うざーい。もう絶対オムライス作らない。もともと作る気ないけど、もう絶対作らなーい。」


それを聞くとがちゃがちゃと慌てる黒宮さん。


「お、おい!それは反則だろ?オムライスは別物だっ!」

知らんぷりして空を見つめる私。


「わかったよ。じゃあなんか、土産買ってくるよ。」


その言葉に私の顔はパァーっと明るくなる。


「えっ!本当にっ!?やった!どこ行くんですか?」


急に態度の変わる私に若干引き気味の黒宮さん。


「パリ。」


「マジですかー!わっ!めっちゃテンションあがるっ!何にしよう。何にしよう。」


箸を置き、うーんと考える事30秒。


「ラデュの本店のマカロン。うん、これがいいっ!」



「えー。そこ、ホテルから遠いんだよなー。」



「えぇーお願いしますよ!それ、どうしても食べてみたかったんですっ!」


黒宮さんは頬杖をついて私の顔をじっと見る。


あっ。ヤバイ。忘れかけてたあの時のドキドキが再びやってくる。


「………わかった。でも帰ってきたらオムライスな。」


「えっ!やった!」


黒宮さんは立ち上がると私の髪をくしゃっと撫でる。


「菓子くらいでそんなに喜ぶなんて。変なやつ。」



そう言って破壊力抜群の笑顔を見せた。
私はその笑顔に、やられてしまう。
ドキドキして、思わず、『カッコいい』なんて見惚れてしまった。


「じゃ俺そろそろ行くわ。」


そう言ってトレーを持ち去っていく黒宮さん。


「あっ!あの!気をつけて下さいね!」


後ろ姿にそう叫ぶと、黒宮さんは振り返り

「当たり前だっ。俺を誰だと思ってる!」

そう言いまたあの笑顔を見せた。


去っていく黒宮さんの後ろ姿を見ながら私はギュウッと自分の心臓らへんを掴む。



「………なんだこれ。なんかすごい、心臓がバクバクする。胸がいっぱいってこういうことなの?」


それからというもの、私は気を抜くと黒宮さんの笑顔を思い出してしまって、落ち着かない一日を過ごした。