「じゃあなっ!ごちそうさま。」




唇に当てられていた手は私の口をむにゅっと潰してタコのようにさせた。


「むむぅ!なにしゅるんでしゅかっ!」


「アハハ。じゃあなっ。」


バタンと音を立てて玄関のドアが閉まる。黒宮さんはあっという間に帰ってしまった。
私はぼーっとしたまま、さっきまで黒宮さんが座っていた場所の向かいに座る。
ドキドキした気持ちのまま、黒宮さんが座っていた場所を見る。


きっと。何かの勘違いだ。
ずっと恋愛していなかったから。久しぶりに男の人に近づいたからだ。


くそぅ。


こんなにドキドキさせられて悔しくなる。


「超エリートって、何のだよ……。ごみ男のくせに。……七瀬っていうな。ばか。」


私はその後もなぜか、そこが特別な場所のような、気がして座る事ができなかった。