気がつけば、嫌なあいつが私の初恋でした



私の心臓、走ったからドキドキしてる?

いや、それとは違う胸の痛みが、ずっと奥の方にある。


「先生、ルール違反してごめんなさい」


ぎゅっとなる胸を手で押さえながら、頭を下げた。


「うん」


「それから明日、梨花を連れて、必ず学校にいきます、行きますから!」


「うん、ありがとな。それを言いに来たのか?」


「……はい」


先生は、ふうっと息を吐いた。
私はゆっくり顔を上げる。


「そういえば、帰りにお母さんに聞いたけど、鮎原はすごくお喋りなんだって?いつも俺の前では、下向いてるし全く喋らないから、帰って来た時の剣幕には驚いたよ。しかも、お兄さんとはずっと話してるって聞いて、俺にも妹がいるから、思い出しちゃったよ。今は家にいないから、愚痴が言えないって嘆いてるんだって?だったら俺に話せよ。お兄さんほどじゃないけど、愚痴ぐらい聞いてやるから、な?」


そう言って先生は、私の肩をポンと叩いた。

「ギャッ!」

一瞬、体に電流が流れて、飛び跳ねる。

「なんだよ、その反応。俺はゴキブリじゃないぞー、ふははっ!」


サーッと風が吹いて、先生のふわっふわな髪を揺らしていく。


ああ、やっぱり私、この声もこの顔もこの髪型も全部苦手だ……。


見てると持たない。
心臓がおかしくなる。


「先生、それじゃ、また明日」