それから40の年月。
私は病院の天井を見つめて人生を振り返っていた。
木崎沙織として生きた半生を。
私は司を本当に全力で愛せたのだろうか。
私は純平に一体なにを返せたのだろうか。
結局2人にもらってばかりだった気がするこの人生。
選んだ道を後悔したくはないけれど、私がしてきたことは正しかったのだろうか。
純平からもらった甘い言葉を何度も何度も司の声で脳内再生して自分を保っていた私。
最後の最後、私はなにを思い出し、なにを考えるのだろう。
愛したことか、愛されたことか。
そしてその時がきた。
私は……。
「ありがとう、幸せでした。」
と泣いて泡になった。
その時、私の脳裏にいたのはお風呂で楽しそうに鼻歌を歌っている司だった。
相変わらず私のほうは見ていなかったけど、司の鼻歌を聞いて洗う食器はキュッキュッと鳴って楽しかった。
それだけ、それだけでよかったのだ。