「辺見くんだってこの辺が地元でしょ?実家から通えばいいのに。そうすればご飯だってお母さんが作ってくれるんじゃないの?」


ヘッドライトで照らされる見慣れた道路を眺めながら何気なく言うと、突然彼は黙り込んでしまった。
しばしの沈黙のあと、ポツリとつぶやく。


「今、親いないから」


ヤバい。空気が重くなった……気がする。
もしかして知らなかっただけで、ご両親は既に他界されてる……とか?
それでひとり暮らしを余儀なくされてるんだ。
申し訳ない思いで胸が苦しくなり、勢いよく運転席に向かって頭を下げた。


「ご、ごめんっ!何も事情知らないのに勝手なこと言っちゃって……嫌な気分にさせちゃったよね」

「え?何が?」

「だって……今親がいない、って……」

「ん?あぁ、あはは、うん、言ったけど。宮間さんが思ってるようなことではないよ?」

「はい?」


じゃあさっきの重くなった空気は一体何なのよ、と思ったけど。
それはおそらく私が作り出した想像から引き起こされた空気だったらしい。
辺見くん自身はさっきと同じように微笑んでいた。


「父親が十年前に会社で昇進して関西地方に異動になったんだけど、不摂生のせいで倒れちゃって。で、結局心配した母親がそっちに移り住んで、僕はアパート借りてひとり暮らし始めたんだよ。だから死んだとかそういうことじゃないから安心してね」

「なんだ〜……、ホッとしたぁ」


ふぅ、と胸を撫で下ろしていたら、隣の辺見くんがケタケタ笑った。
「宮間さんは変わらないね」と。