ゲームがなくても、ちゃんと生きていた。
コンクリートは硬く、家は暖かい。
学校はいつも通りで、宿題も出た。
変わったのは放課後から。

僕の部活はゲームしかしなかった。
部員は昨日の優勝の話で持ちきりだ。
格好の話の素材が来たと、目を光らせている。

「テイ、優勝おめでとう」
「いや」
「謙遜すんなよー、流石だな」
「うん」
「生放送で見たけど、やっぱ相手も強かったよなー」
「僕、ゲームやめる」

我ながらアホだと感じた。
空気を読めなすぎる。
間抜けな顔をして唖然とする部員の前に、退部届を置いて廊下へ逃げる。
つかまれる右手。

「ちょ、ちょっと待てよ」
「なに」
「どういうこと? 俺らなんかした?」
「いや、ゲームしてるんじゃない?」
「そういうことじゃなくて」
「腕」
「え」
「腕、離して」

あっさり。
とても体が軽い。
いつもより短く感じる廊下。

「湯浅」

シゲヒゲの声。

「どうした湯浅、何かいいことでもあったのか」
「何も」
「先生に教えてくれよ〜、なぁ湯浅」

気安く何度も、僕を湯浅と呼ぶ。
うざい。

「先生、僕はあなたの部活をついさっきやめました。だからもう、馴れ馴れしくしないでください」
「え、そうなの?」
「はい」
「ふぅーん」

シゲヒゲは嫌な笑みを浮かべる。

「じゃあこれからはプライベートとして、湯浅と絡めるね」