様子見安定の初手。
空中ダッシュで接近してきた相手を弱いパンチで撃ち落とす。
リズミカルなコンボは華麗に決まり、僕はその地域の一位になった。
鳴り響く歓声の中、僕の感情は複雑だ。

僕は、この街が好きだ。
外に出る気がない。
この街のゲームセンターはここだけで、僕はここ以外行く必要も義務もない。
ココで1位になったら、一体僕はこれから誰を相手にすればいいのだろう。
かの人は言った。
タイトル防衛戦があるじゃないか、と。

いらない。
いらない。
そんなものはいらない。
負けて失う称号に興味がない。
買って得た栄光、それは時間とともに色褪せる。
新規加入を妨害し、身内を高揚させ奢らせる。


「テイ選手、今率直に何がしたいですか?」

「質問を断りたいです」


この日から、僕はゲームをやめた。