「…!?しっ、静かにしろ!!おとなしくしないと殺すぞ!!」




どうやらキッチンから包丁を持ち出していたようで、丸腰でバスタオル一枚のあたしにそれを向けながら大声を上げる男。




見たところあたしと同い年か少し上くらいの若い男だ。




…髪はボサボサ、髭はボーボー、服なんかぼろっぼろで見るに耐えないが。




「あー…あのさ、とりあえず風呂入ってくんない?」




「………は?」




「だーから、風呂入れって。
そんなきったねぇ格好で家ん中歩き回られんのヤなの」




男を睨みつけるとビクッと体を跳ねさせて目を逸らされた。




「置いてある剃刀使って良いから髭も剃ってこい。
それまで話もしたくねぇし聞きたくねぇ」




「は、はい…」




睨んだまま言うと反射的に、観念したように頷いた男。




「包丁流しに置いてさっさと入ってこい」




「ど、ドアの前に、いろよ…」




「は?」




あたしの言うことに大人しく従ったかと思ったら、オドオドしながらそう言う男に顔を向ける。




「け、警察とか…」




「しねぇよ馬鹿」




もごもごと言い淀む男を遮り男の心配事をばっさり切り捨てる。




「まぁ、気にするのもわかるからいてやる。丁寧に綺麗にしてこいよ」




男を風呂場に追いやりながらそう言い浴室のドアを閉めた。