__あれは、雨の日だった。 バス停の屋根の下、バスの到着をベンチに腰掛け、待っていた。私の隣では、彼が静かに本を読んでいる。 聞こえるのは、地を打つ雨の音だけで。 湿った筈のその中でも、色素の薄い彼の髪が、ふわふわと揺れていた。 濡れたアスファルトの独特の匂いに、微かに混ざる、彼の優しい香り。 見上げた空は、不機嫌そうにみえる。 "パタン"と音がして、見れば、彼が本を閉じたのだとわかる。彼はどこか遠くを見ていた。