バスが停まり、扉が開く。 「行って」 彼はそう言って、私の背を優しく押した。 バスへと乗り込んで、カードをかざす。 いつの間にか背中の温もりは消えていて。 「...僕には、ずっと、君がわからなかった」 同時に、そんな言葉が聞こえた。 振り返れば、彼が眉を少しだけ寄せて、 どこか、哀しそうに私を見上げていた。 "だけど" 「君が、すきだったよ」 そう言って、彼は屈託なく微笑んだ。 運転手さんの、"出発しますが"と困った様な問い掛けに、彼が謝り、"行ってください"と答える。