月の光に照らされて

大漁とはいかなかったが子供達一人分ずつの量が釣れて、少年が魚の入った網を持った。


「ねぇ、名前無いんでしょ?」

「忘れただけだが、無いのと変わらないな。それがどうした?」

「なんて呼べばいいかわからないでしょ?名前ないと。わ…私が決めていいかな…?」

「変だと思うものでなければ、好きにしろ」

「ほんと!?考えてたんだけどさ…、サカってどうかなって…」

「いいんじゃないか?それで。変な意味を持った言葉でもなさそうだからな」


サカ…、神の詩に使われた言葉で『生を分かつもの』。人は一つの魂が二つの命に分かれて生まれると神書によって伝わり、それは必ず一つに戻ろうと互いを導くとされている。ユナはリクの読む本からそれを知って、彼にその名を付けたのだろう。だが、文学に縁のない彼には古の言葉である神の詩の云われを知っているはずはない。



長家に戻ると子供達が廻りを囲み、さかなが沢山釣れていることに大喜びしている。今日の夕食に争いは持ち込まれたりはしないだろう。早速と手を合わせてマキは魚を捌き調理を開始。隣ではリクが使う調味料を用意している。


ユナはサカと共に食堂に机を並べると、窓際に座り景色の遠くに消えいく陽の光を眺めながらユナはそっと寄り添っていた。



「そんなにくっつくなよ」

「い、いいじゃん。嫌なの?」

「そういうわけじゃない。熱苦しいだけだ」

「いいじゃん、じゃあ。私はこうしたいんだから」




確かにこういうのも悪くない。今まで女というものと付き合いがなかった分、この時間が好きになったともいえる。これが求めていた光か…。


「な…なぁ。俺ここにいていいかな?」

「どうしたの?急に」



サカ自身も急にどうしたのだろうと思う。なんでこんなことを口にしたのか?彼女に自分自身が何かを求めている…?安らぎ?癒し?実際、身体を寄せられても本当はうれしく思う。こんな時間を大切にしたい、いやこの先ずっとこんな刻であるのを望んでいる。



「悪い、聞かなかったことにしてくれ」

「いいよ、ずっとここにいて。リク姉ちゃんには五月蝿く言われるかもしれないけど」

「そうか、初めてだ。こんなことを言ったのは…」