昼間とは違い、風が吹いていない。木のざわめきもなく、月の光だけがこの大陸を照らしている。

戦場も、この月の下では静まり返っているのだろう。少年の中はきっと、この景色を望んでいるのかもしれない。何故、人は殺戮と憎悪しか生まない戦争を続けるのであろうか。こんなことをしても無意味だと気付きもしない。




長家に着いた頃にはもう寝静まった夜の刻。いつもながらベンチに腰掛けようと近付くと、少女が腰を掛けて月夜を眺めていた。


「どうしたんだ?こんな時間に…」



闇から現れた少年にビクッと驚き、少年だと気付くとホッと落ち着いて顔を上げる。


「今までどこにいってたの?マキ姉ちゃん心配してたんだから」

「それは…悪い」

「マキ姉ちゃんに言って。私は別にここで待ってたわけじゃ…。

夜空を見てただけなんだから」




小さな声で呟いた少年が何を言ったかは知らないが、同じように空を見上げて少女の横に座った。

時がとまったように流れる。二人は何も話さない。ただじっと、何か同じものを求めて月を見ているだけであった。



目がゆっくりと閉じられた。