月の光に照らされて

翌朝、いつものように朝を迎えるはずだった三人は、布団から出ると、寝かして置いたはずの少年がいないのに気付き、ドアが開いていたので慌てて外に駆け出した。

外のベンチに少年は横になっていて、手を頭にやってぼんやりと空を眺めていた。その瞳にはくすんだ黒が染まっていた。

少年はこちらに気付くと、身体を起こして三人の方向を向いて立ち上がる。足は未だに重そうだ。


「どう…したんだ?」



彼の声は低く、沈んだ音に聞こえた。表情からそれがわかる。


「心配した、とでも言えばいいか?」

口の悪いリクがそういうと、「なんだ」と素っ気なく返事をされ、再びベンチに腰を置いた。リクはそのまま部屋に戻り、子供達を起こしにいった。


「あなた、お名前は?」

「………、忘れた」



記憶喪失?と思える言葉だが、軍服を着ていることや今まで何をしていなのかと聞けば、はっきりと答えが返ってくる。

こんなところといえばおかしいが、二日三日死に物狂いで走れば、戦争が行われている危険地帯までいくことは可能で、そこから逃げてくることももちろん可能である。だが、捕虜にされていたとはいえ、ここは敵国の地であり、もし逃走が見られていれば探させられるであろう。数日経っているのならば、捜索範囲は広くなっているのだから。


「あまり外を出歩かない方がいいわ。敵国の人間だと知られなくても、徴兵される可能性があるもの。せっかく戦場から逃げて来たというのに…」

「でもマキ姉ちゃん。敵国の人間を看護してるなんて知られたら、私達が―――」

「ダメよ。人間は人間なんですもの。生まれが違うからといって、差別はいけないわ」



平和主義のマキは、例え戦争であっても命があれば両者に手当をするだろう。戦う民に罪はない、まして差別など、彼女の母が赦すはずがない。と彼女の中で想っているはずだ。