どんなに月が輝いて、自分の手を引いてくれようとも、その輝きを汚してしまう事がわかっているならば、自らでその手を振り払う。闇は決して、光と共に存在することは出来ないのだから…。


押し殺している感情は、誰もいないところで破裂し、彼女に応えられない自分の悔しさに、力いっぱい木をぶん殴る。大きく揺れた枝からは、葉が舞い散り、ゆっくりと彼の体を避けて大地に降りる。

いつもなら直ぐにでも落ち着かせる心が、今日は全く落ち着きを取り戻せず、自らが決断した行動に後悔した表情で、苛立ちを隠せない。

こんなことになるならば、いっそ来なければと思うほど悔いていた。だけどまた反対に、彼女を求める心の内が、今の状況を強く嘆いていた。



そんな事を遠くから監視していた何人かの偵察が、殺し屋の弱みとなる情報として握ったようで、彼等は直ぐに基地へと戻っていった。

この弱みを握れば、任務の遂行と、帝朧の復讐が同時に出来る、まさに一石二鳥の情報を手に入れた事になる。

偵察の気配にすら今の彼には感知出来ず、気持ちが落ち着いた頃には、周囲を警戒せずに忘れたい一心で眠りに就くことであろう。