「栞(しおり)、おはよう」

下駄箱の前で上履きに履き替えていると、後ろから声をかけられた。

「澪(みお)ちゃんおはよう」

澪ちゃんは私の同級生で、幼馴染み。
小さい頃からよく家に来ては遊んでいた。
もちろん姉とも…。

「今日、学校きて大丈夫なの?」

廊下を歩きながら、澪ちゃんは心配そうな顔で私に問いかける。

「大丈夫だよ」

「だって今日は……」

澪ちゃんが心配するのは、当たり前なのかもしれない。
今日は"姉の命日"だからだ。

「もう6年だね」

ふと窓に映る自分の姿を見て、私は"あの日"のことを思い出す。

「もう咲弥さんと同じ年齢になっちゃったね」

6年前、まだ12歳だった私たちはもう18歳になっていた。

姉が亡くなってからしばらくは、時が流れるのが遅く感じて脱け殻のような日々が続いた。
でも気づけば6年の月日が流れて、自然に笑えるようになっていった。

私の左隣に歩く澪ちゃんを見つめる。
短めのボブだった髪は肩につくくらい伸び、幼かった顔は軽く化粧をして頬はピンクに色付いている。

こんなにしっかり澪ちゃんの顔を見たのは、何年ぶりだろう。

「どうしたの」

まじまじと見る私を、澪ちゃんは不思議そうに見つめる。

「気にしないで。なんか見たくなったの……"最後だから"」

「え…?」

「何でもないよ。教室急ごう」

「……」