パンプスとスニーカー

 …うぐ。


 すっかりひまりを説得することと、いかにそれらしく祖母や姉に見せるかで頭がいっぱいで、呼び名のことまで頭が回っていなかった。




 「それに武藤さんも、そんなに内気ってわけではなさそうよね?」




 実際、友人たちのことはあまり名前呼びしていないようだが、一佳には最初『お姉さん』と呼びかけ、『私の下に、もう一人武尊には姉がいるから、私のことは一佳って呼んでね』と言われて、戸惑うことなくあっさりと名前呼びに切り替えられたくらいだ。




 「えっとぉ、そのぉ」




 姉とは反対隣のひまりの目が困ったように、武尊へと向けられる。


 単なる自分の疚しさが生んだ被害妄想かもしれなかったが、心なしか祖母と姉の目が疑わしげに自分を見ている気がして、いやな汗が流れた。




 「北…」

 「もちろん!名前、名前呼びしてるよな?」

 「え?」
 
 「初対面の俺の家族にあまり砕けたところ見せるのもって、遠慮して苗字呼びにしてたんだよ。ほら、彼女、そこは常識的な子だからさ?」




 「なっ?」、と合図を送れば、カンが鈍いわけではないひまりも「ええ」と調子を合わせて頷いてくれる。

 「そうなの?」




 …一姉、なんだよ。名前くらい何こだわってんだよ。


 内心汗、ダラダラだ。




 「で、なんて?」

 「その…え~、た、」

 「一姉」

 「私も聞きたいわね。私の時代は、今よりずっと堅苦しくて、今時の子たちはどんな風に呼び合うのかしら?」




 祖母にまで聞かれて、仕方なくひまりが口を開く。