パンプスとスニーカー

 意外と言えば、ひまりの外見の変わりようもだ。


 おそらく彼女に似合うだろうとチョイスしたワンピースや靴で、また美容院でもその衣類のイメージに合わせてカットやメイクをさせた。


 それにしても、あまりにひまりの変化は鮮やかで、見違えた…まさに、そうとしか言葉がない。

 
 まるで蛹が蝶へと羽化するように、今のひまりは普段の化粧っけのない子供みたいな女の子に見えない。


 …ま、俺の好みじゃないけどね。


 武尊のような大人な女を好む男にはイマイチなウケだろうが、ひまりの清楚で可憐な可愛さは、守ってやりたい願望の男たちには十分魅力的だ。


 恋人役を頼んでおきながら、ひまりをほとんど女として意識したことがなかった武尊の目を、見張らせたことは確かだった。


 と―――、




 「わっ」

 「危ないっ」




 何もないところで、なぜかいきなりバランスを崩してコケかけたひまりを、武尊がとっさに伸ばした片手で、彼女の上腕を掴んで支えてやる。




 「なにやってるんだよ、あやうく顔面でコンクリートを頭突きするところだっただろ?」
 
 「うう、それは勝てなそう」

 「いや、100%勝てないから」

 「ははは」




 ひまりが力の抜けた笑い声を上げる。




 「靴、合わない?」
 
 「そんなことはないと思うんだけど、やっぱり、ちょっとヒールのある靴は慣れなくって」

 「ああ」




 そういえば、こういった靴は初めてだと言っていたか。


 さすがにスニーカー以外に履いたことがないというほどの強者ではないらしいが、どうせ入学式や冠婚葬祭で履く、いかにも飾りっけのないお堅い革靴が関の山だったのだろう。




 「靴ズレとかは、大丈夫?」

 「あ、うん。それは平気」




 ショップから近いからと、車を置いて歩いてきたのは失敗だったかと、しばし思い悩んで武尊がひまりの足元を見下ろす。


 そんな武尊の視線に気がついて、ひまりがポンポンと自分の腕を掴んで支えてくれている大きな手を小さく叩き、ニカッと笑った。