パンプスとスニーカー

 「…口止め料」

 「そう、恋人のフリのことだけでなく、うちの家族に会ったことで知り得た、俺やうちの個人的な事情をよそには洩らさないで欲しい」




 人柄が気に入った…そう言って友達になってくれと言っておきながら、人格を疑うようなセリフを吐くのが、自分でも薄汚れていると思う。


 それでも、世の中それだけで上手く渡っていけるものではないのは、武尊にとっては周知の事実だった。


 …それが現実ってものだよな。




 「賄賂っていうのは、アレだろ」




 ひまりの口がへの字に曲がる。




 「だから…そうだなぁ」




 なんといえば、一番ひまりが納得しやすいか、それでも武尊なりに思案を巡らす。




 「秘守義務を伴う契約報酬ってことでしょ?」

 「そういうことになるかな」 




 契約には双方に義務が生じる。


 報酬を受け取る以上、その義務を犯せば、当然ひまりにもペナルティが生じるのだ。




 「ごめん、俺から頼んでおいて失礼な話だとわかってるんだけど」

 「ううん、北条君、いいおウチのお坊ちゃまなんだもの。最初にも、あることないこと喋られたり、それをネタに恐喝されたりするのは困るって言ってたものね」 




 ひまりを疑っているわけでないにしろ、気持ちの良い話ではないだろう。


 けれど、ひまりもそれで一応の納得はしたらしい。




 「気を悪くさせちゃったかな?」

 「いいよ、わかるし。親しき仲にも礼儀あり、…というのともちょっと違うか。でも、たとえ友達でも馴れ合いだけですべて解決っていうわけには、たしかにいかないものね」